プロローグ
2003年1月、足掛け14年勤めた外資系コンピューターソフトウェア会社を退職し、しばらく休養をとる事にした。免許の最高峰と言われている大型二種免許(バス)の取得に興味があったので、これを好機とばかりに2003年2月よりチャレンジを開始した。チャレンジ開始時点で取得していた免許は、普通一種、普通自動二輪、大型自動二輪であった。まずは大型一種免許(トラック)を取得すべく、二子玉川の東急自動車学校に入学した。教習は何の問題もなく、無事に卒業することができた。下はその後の大型二種免許の受験記である。なお、この受験記は、有名なEmpty氏の「運転研究」サイトに掲載していただいたものと同一である。
2003年3月17日(月)大型一種免許交付、大型二種免許学科試験1回目(合格)- 府中試験場
前日卒検に合格した大型一種の卒業証明書を持って府中試験場を訪れる。当日最初の交付時間に間に合うようにするため午前8時(開門時間)に試験場に到着し、書類を作成し目の検査を受けて、午前9時20分に大型一種免許の交付を受ける。その足で大型二種免許試験の申請を行い、当日午後1時からの学科試験を受けられるよう手配する。数日前から「大型二種免許一発合格」という本で二種学科試験の勉強はしていたが、午後1時の学科試験開始まで時間があったので、売店で二種学科試験問題集を購入し試験開始5分前まで勉強する。本には出ていない問題がたくさんあり、結果的にこの往生際の悪さが奏功し95点で合格することができた。この午後1時からの学科試験は、仮免許、一種免許、二種免許等が同じ試験室で同時に行われ、100人程度の受験者がいたと思うが、合格したのは3割といったところで、合格率の低さに正直驚いた。不合格者が退席したあと、技能試験の予約方法等の説明を受け、技能試験日時の予約を行う。試験前に少なくとも数回は大和自動車教習所でバスの練習をしようと考えていたので、11日後の3月28日(金)を技能試験日として予約し、府中試験場をあとにする。
2003年3月18日(火)バス練習1回目 - 大和自動車教習所 - 所内 - 2号車
生まれて初めてバスの運転席に座る。日曜日まで教習所でトラックを運転していたので、さほど違和感なく動かすことができた。トラックと前輪位置が違うというが、交差点の左折で脱輪や大回りもしなかったので、自分としては前輪の位置の違いは気にならなかった。方向変換は大型一種の教習で何度も行ったので基本的に問題なし。鋭角は全く初めてなので、教官に教えられるままそろそろと動かしてみると、切り返し一回で見事クリアできた。鋭角の切り返し後退時にどこまでさがればよいかは、後輪ランプと縁石との位置関係で判断すると教えてもらった。正直「何だ、バスなんて簡単じゃん」と思った初日であった。
2003年3月19日(水)バス練習2回目 - 大和自動車教習所 - 所内 - 2号車
前日に引き続き所内を走る。問題ない思っていた方向変換に異変が生じる。右後退時、車が左に寄ってしまう。つまり左へ脱出時に苦しくなるパターンに陥りがちになる。これは前進時に左に頭を振るとき、ハンドルを切るタイミングが知らず知らずのうちに早くなっていたらしい。教官からは前輪が縁石の角を通過するまでガマンすることを指摘される。また、後方50cmも一杯まで寄せようとしてポールに触れてしまう。教官からは、ポールに触れると一発で不合格なので少し余裕を持たせるよう指摘される。素直に受け入れ余裕を持たせるようにするが、後日の技能試験では後退のやり直しを命ぜられた。鋭角は基本的に問題なかったが、一度だけ切り返しが2回必要な時があった。方向変換も鋭角も、慣れで運転が少し雑になっているようである。入所時の説明で、所内を2時間走れば3時間目からは路上に出られるとのことだったので翌日の予約を取る。
2003年3月20日(木)バス練習3回目 - 大和自動車教習所 - 所内 - 1号車
今日から路上へ出られると思い込んでいたのだが、教習が始まり、暗い感じの教官が所内をあっちいけそっちいけと指示するのだが、いっこうに路上へ出る気配がない。まあ「初めての路上だから所内で十分に慣れさせておいてから行くのねー」なんて勝手に解釈していたが、時間の半分過ぎても路上に出る気配なし。ここでやっと、この教官と配車係との連携が取れてないことを悟ったが後の祭り。あーあ、この人たちサービス業なのにねー。ところが、結果的にはこの所内の練習が大変役に立った。というのは、この日初めて1号車に乗ったのだが、鋭角の後退時、2号車と同じように後輪ランプと縁石との位置関係を目安にしたところ、ボヨンと接輪してしまった。教官は不愉快そうに「誰がそんなにさがれと教えたの?」と言ったので、「それはあんたとこの○○さんだよ」と言いたいのをガマンしながら、頭の中では車によって後輪ランプと縁石との位置関係は微妙に異なるので、少し余裕を持った位置で後退を止めたほうがよいことを学習した。
2003年3月26日(水)バス練習4回目 - 大和自動車教習所 - 路上 - 2号車
6日ぶりのバス練習、そして技能試験1回目までの最後の練習である。指定された2号車の運転席に乗り込み、シートをあわせ準備を整える。そこへ教官がやってきて「今日は路上に出ますね?」と聞いてきた。そうそう!サービス業は横の連携が大切だよ!教官が運転し教習所を出て試験場の正門を越えてから運転を交代する。100メートルも行かないうちに、駐車車両を避ける際に右にウインカー出さずに車線をまたぎ、今のはウインカーが必要だと指摘される。いつもの普通車を運転している感覚を早く切り替えねば・・・が、しかしそこからまた100メートルで、今度は車が左に寄りすぎて補助ブレーキを強く踏まれる。おぉいかんいかん。「バスは左間隔重視だからねー」と強い口調で注意される。教官には結構怖いを思いさせてしまったようであるが、この強い口調が私の気持ちを切り替えてくれ、この後はバスを運転していることを強く意識して、心持ち車を右に寄せて走り、できるだけ左の間隔を確実に取るようにしたところ、再度補助ブレーキを踏まれることはなかった。教官はコースの途中で制限速度が40Km毎時から30Km毎時に変化する箇所を教えてくれ、また、それに気付かないで不合格になる受験者が多いと教えてくれた。途中一回、加速が強すぎる旨の指摘を受けた。少しメリハリを意識しすぎたようだ。心持ち加速を緩めにしてみたところ、良くなったと言われた。発車時には交差点の左右確認と乗客の目視確認をするよう指導される。教習所に戻った後で、左折時に左後輪が縁石にキレイに沿うような曲がり方をしたほうがよいとの指摘を受けた。最後に「技能試験に合格できそうですか?」と聞いてみようか思ったが、「もう少し練習が必要だね」などと言われると自信がなくなるのでやめておいた。
2003年3月28日(金)大型二種免許技能試験1回目(合格)- 府中試験場
午前の試験を予約していたので午前8時過ぎに試験場に着く。指定された集合時間の8時30分までには少し時間があったので、自販機のコーヒーを飲み8時20分に本館2階の技能試験室に上がる。それから数分後、奥からゾロゾロと試験官一団がお出ましになり、技能試験の手続きが始まった。大型二種の受験者から受験票と採点表を交換し、その後すぐに試験官を先頭にプラットフォームに下りて行き、受験者全員が2号車に乗せられる。この時点で8時30分になっていなかった。学科試験合格時に配られた「技能試験を受験される方へ」という案内には、指定の試験時間の5分~10分前には集合と書いてあったが、大型二種は10分前には技能試験室に入っていないと間に合わない。外資系企業に長く身を置くと会議等の開始時間に人が集まらないことに慣れてしまうが、久々に身が引き締まる思いがした。バス内で試験官が技能試験の説明を行う。受験者は8名で1回目はなんと私だけであった。説明が終わり、4人の受験者が1号車へ移動する。私は2号車の3番目である。運転席の後ろの席に陣取り、1番目と2番目の受験者の試験を観察しながらコースを覚える。両者とも無難にこなしてはいたが、各々鋭角の切り返しは2回、安全確認もあまく、クラッチ操作、ブレーキ操作も少し荒い感じがした。正直言って、この程度で合格するのであれば、練習どおり運転しさえすれば場内は楽勝だと思った。さて私の番である。運転席につきシートとミラーををあわせ「準備できました」と申告後発車。プラットフォームを出て左折し、外周を半周して3つ目のコーナー手前の鋭角に右折で入る。あわてていたのか後退時にハンドルを逆に廻しかけるが、すぐに気付いて切り返し一回で鋭角をクリア。鋭角を出て右折し外周を半周して右折、すぐに右折して左後退の方向変換に入る。左寄りにうまく入った!練習で習ったとおり少し余裕を持って後退をやめ、停車措置をして「できました」と申告したところ、試験官よりもう一回との指示。50cm以内にとまっていなかったのか、それとも実力を試しているのかわからなかったが、一旦車を前へ出し安全確認後再度後退、一回目より少し後ろで停車し「できました」と申告したところOKが出た。方向変換を出て右折しすぐに左折、次の角も左折、そしてもう一度左折して外周に入り、最初のコーナー手前で右折してプラットフォームに戻り場内の試験を終えた。4番目の受験者は鋭角は何とか出られたが、方向変換で車を右寄りに入れてしまい、その後幅寄せせずにそのまま右へ脱出しようと試み失敗、切り返しを数回行うも失敗、おまけにエンスト、こりゃ落ちたなという感じがした。案の定、路上へはこの受験者を除く3名で行く事になり、トイレ休憩の後、試験官が運転して試験場を出発、二枚橋交差点を越えて1番の受験者に運転を交代する。この受験者は結構ハデな加速をする。走り出してすぐに一回目の停車を指示されるが、「おいおい止まれるのかよ」というぐらいまで目標に近づいてからきつめのブレーキをかけ強引に停車する。メリハリといえば聞こえはよいが、やはり運転が少し雑な気がした。やはりそうで、基督教大裏門交差点を過ぎた辺りで車がするすると左に寄っていき、試験官に強く補助ブレーキ踏まれ「コラ!擦っとる!擦っとる!」と怒鳴られた。その後東八道路を左折し三鷹方面をぐるぐる走るが、この受験者の運転はなんとなく怖い。例えば、制限速度40Km毎時の道路で駐車車両を避ける際に、アクセルに足を置いたままきっちり40Kmで避ける。その車の陰から子供が飛び出したらどうすんの?横断歩道の通過時には必ずアクセルから足を離しているが、これがいかにもわざとらしい。それでも、3回目の停車課題まで行い2番目の受験者と交代する。2番目の受験者は三鷹方面から東八道路に右折で入り、基督教大裏門交差点を左折して人見街道、さらに甲州街道に入るコース。基督教大裏門交差点を左折するときに、その交差点の100m程手前でも3車線の中央にいて、明らかに左車線への車線変更が遅れていた。何とか左折し人見街道に入る。ここは制限速度が40Km毎時から30Km毎時に変化するワナがある。うまく速度を落とせるかどうかを観察していたところ、30Km毎時に変わる辺りまで先の道路工事現場から渋滞しており事なきを得た。年度末に感謝といったところか。ここでしばらく渋滞を進むが、天気もよく暖かかったので、ディーゼルエンジンの振動が快い眠気を誘う。ふと試験官の方に目をやると・・・
寝ていた
目を閉じていた。この受験者は、発車時の直接目視による乗客の安全確認を時々行っていなかったが、運転そのものは安心して乗っていられた。3回目の停車課題を行った後、少し行ったところで停車の指示。おいおい、ここで交代?ここは上り坂だよ、いきなり坂道発進なの?シートを合わせミラーを確認してニュートラル、エンジン始動、おっとバッテリースイッチが入ってない。すばやくバッテリースイッチ入れてエンジン始動。2速に入れ、右ミラー見て右ウインカー。左目視、右目視、乗客目視、サイド下ろしながら発進。うまくいった!正直言ってその後の自分の走ったコースは覚えていない。試験官の指示どおり、右折して左折した。心がけたことは、完璧な安全確認、左方の間隔、ちょうどいい加速と早め緩めの減速、そして数秒後の未来を予想すること。途中一回街路樹に引っ掛け、カラカラという音が車体の前から後ろまで駆け抜けていってしまった。うーんマズイ!しかし周辺視界では試験官のペンは動いていないように見えた。おぉ、いつの間にか東八道路に出ている。試験場も近いのに、まだ1回しか停車課題をやっていない。こりゃ落ちたか・・・その後すぐに2回目と3回目の停止課題を立て続けに行い、少し行ったところで運転を交代する。試験官の運転で試験場のプラットフォームに着き、すぐに車内で合否の発表が始まった。最初に試験官は手元にある私の採点表を見ながら、「ブラックバードさん、一回目にしてはうまくまとめてくれました」との微妙な言い回し。「一回目にしては」か・・・一瞬の沈黙の後「合格」。やった!「ありがとうございます!」。2番目の受験者も合格。なるほど試験官を居眠りさせられるほどの運転なら合格するのであろう。実際、安心して乗っていられた。この人は3回目の受験だったそうだ。1番目の受験者は不合格。試験官の評としては、久しぶりに背筋が凍った(補助ブレーキの件)、および運転が強引(駐車車両を減速しないで避ける動作)であるとのこと。この人は7回目の受験だったそうだ。やはり不合格にはそれなりの理由がある。
合格した理由の考察
教習所で大型一種を取った後、間をおかずに大型二種を受験したので、大型車の運転感覚を持続できたこと。
技能試験前にバスの練習をしたこと。バスの練習なしのぶっつけ本番でも受からないことはないとは思うが、不合格になる確率は高くなると思う。なぜなら、鋭角は大型一種の課題にはないので全くの未経験であったし、方向変換にしても大型一種ではポールまで50cm以内にとめることを意識したことはなかったからである。また、大和自動車教習所の路上練習コースは実際の試験コースであり、試験のポイントを教えてもらえたので本当に役に立った。
安心して乗っていられるような運転を心がけたこと。試験官はエンジン始動や駐停車措置の細かい手順よりも、常に事故に遭うリスクの低いところで車を運転できているか否かを見ているように思う。
2003年4月18日(金)取得時講習 応急救護処置講習 - 東急自動車学校
2003年4月21日(月)取得時講習 大型旅客車講習 - 東急自動車学校
2003年4月23日(水)大型二種免許交付、けん引一種免許交付、およびけん引二種技能試験申し込み - 府中試験場
講習終了証明書を持って、晴れて大型二種免許の交付を受ける。大型二種技能試験合格後、取得時講習までの期間で教習所にてけん引一種の教習を済ませたので、けん引一種免許の交付も受ける。そして、どうせならけん引も二種まで取ってみようということで、その技能試験を申し込んだのであった。
エピローグ
ここまでで大型一種と大型二種、おまけにけん引一種免許が取得できた。その後のけん引二種であるが、1回目の技能試験は、約1ヶ月のブランクと初めての車両ということで、方向変換で失敗し不合格になったが、次の2回目でめでたく合格した。ここで大型特殊一種および二種をとれば、運転免許の全車種制覇が達成できることに気付いた。思い立ったら即実行ということで、大型特殊一種を取得すべく二子玉川のコヤマドライビングスクールに入学した。6時間の教習の後無事卒業し、大型特殊一種を取得した。そして、これを書いている2003年6月3日に、府中試験場にて大型特殊二種の技能試験に1回目で合格し、全車種制覇が達成された。大型一種の教習開始から約4ヶ月で六つの免許を新たに取得したわけである。試験で不合格になったのは、けん引二種の1回目だけで、その他の試験(修検・卒検・技能試験)はすべて一発で合格できた。実際、教習や技能試験では自動車の運転を楽しむことができたし、また非日常を体験できて愉快であった。というわけで、全車種制覇したといっても、あまり実感がわかないというのが本当のところである。逆に適度の緊張を失い、毎日の生活に張りが無くなってしまいそうな気がする。次は飛行機にチャレンジか...